(その1) 力のモーメント(トルク)概説
物理学における“保存法則”の意味運動量,エネルギー,角運動量 ―― これら3つの量に関する保存法則のすべてが,ちょっとしたベクトル計算によりニュートンの法則から導かれる。そのため,保存則はニュートンの法則を複雑な問題に適用する際のブルドーザーで,運転手はあくまでニュートンの法則だろうと考えてしまうかもしれない。だが,原子や分子以下のミクロの世界≠フ問題を相手にしてみれば,ニュートンの法則が量子力学の法則≠フ特例的な近似に過ぎないとわかるのに対して,不思議なことに,そんなミクロの世界でも通用する保存法則の量子力学版≠ェちゃんと存在している。保存法則は物理学の発展に指導原理的な役割を果たしている。
さてその1≠ナは,運動する物体にはたらいて運動のプログラムの何かを書き変えてしまう“力のモーメント(トルク)”についての簡単なことがらの学習から始めよう。
ねじって回す≠フが力のモーメント
2人で棒の両端を持って向き合い,棒の中心軸のまわりに互いに反対向きに捻(ねじ)る°」争をしたとしよう。棒がバットであったとすると,有利なのはバットの柄を握った A ではなくボールを打つ方の端を握った B だろう。
そのような競技で勝敗に関係する重要な因子は,棒の半径,つまり棒の中心(回転中心)線から棒の表面(力の作用点)までの距離だ。独楽(こま)やヨーヨーの本体を回すのに,あらかじめ巻きつけておいた紐をほどいてねじりの作用≠効かせる。このねじりの作用≠“力のモーメント”,または“トルク”という。本章では,単に社会的な認定度が高く簡単という理由で“トルク”を標準で用いたが,「高校以来“力のモーメント”に馴染んでいるから」という人もいるだろう。力のモーメントをトルクとも称する程度に考えてもらいたい。自動車の性能項目に『トルク』があるのは,ちょうどエンジンからタイヤまでを上記のバットのような回転軸でつないで力学的エネルギーをタイヤに伝え,タイヤはr とF とそれらのなす角度(ふつう直角)で決まるトルクをもって地面を蹴るからである。ガリレオの「仕事の原理」を参照。
次に,ストローにぶら下げた“おもり”の重力がストローを倒す場合を考えてみよう。この場合の捻り因子=Cつまりバットの半径に相当する量には,r sinαまたはr sinθが含まれているのがおわかりだろうか。釣りをする人には,魚を釣り上げたときには重く感じられた魚が竿を起こすにつれて軽くなってきたという経験があると思う。『逃がした魚は大きく』感じられることとも多少は関係がありそうだ。
このような独特なねじりの作用=\― “トルク”(または“力のモーメント”) ―― は,すでに第2講でつり合いの問題力のモーメントのつり合い≠ニして扱っている。
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基礎物理学T第9講(受講生のみなさんへ)