第2講 運動量≠ニ力積

(その1) 運動量保存の法則


《変化する運動の「度」≠ニ保存される運動の「量」=t

 近代科学の基礎がつくられた17世紀,ヨーロッパ中に科学的精神が浸透していきました。なかでもルネ・デカルトは人間の自然に関する新しい,しっかりとした知識を探し求めていました。彼の哲学の基本原理を表すラテン語の言葉

cogito ergo sum (我考う ゆえに我あり)

は有名です。デカルトは,物理学の言葉は数学であることを証明しようと努力し,ガリレオが地球周回にこだわった慣性の原理≠直線運動で正しくとらえ直すことによりいっそう明確なものにしました。

デカルトの宇宙観では,宇宙にある全「運動の量(勢い)」は一定である≠ヘずでした。今日慣性の法則≠ニ呼ばれているもの(ニュートンの運動の第1法則=jの基礎は,デカルトによって,外部から力を受けない物体は(閉じた系は)直線上を動き続ける≠ニ述べられています。

 なお,衝突について他のだれよりも詳しく研究していたデカルトは,想像以上に強烈に力の相互作用をも認識していたと思われるのです。

 いま,物体Aと物体Bの2つだけからなる宇宙≠ェあったとしましょう。AとBは地球からの重力の方向に垂直に運動する力学台車や砂袋でもよろし。この場合,AとBの宇宙≠フ外から宇宙≠ノ働く力の影響があっても,その効果はAとBに平等に作用し,両者の相互作用に影響を与えないので,宇宙≠ヘ閉じた系となんら変わりません。

衝突・合体 and/or 乗り込み

 図のような衝突や乗り込みによって,全系の「運動の量(勢い)」は変化しないことをデカルトは発見しました。この変化しない物理量は,こんにち運動量≠ニ呼ばれています。(物体の速度は変化するので,副題では変化する運動の「度」≠ニ名付けておきました。)

運動している物体系に固有な量は速度≠ナはなく運動の量≠ナす。速度≠ェ物体を構成する単位の量(1kgの要素)の「運動の量(勢い)」であるのに対して,要素ごとの「運動の量(勢い)」を総合したものが系全体の「運動の量(勢い)」です。速度が物体系全体の固有量でありえないことは,図の例のように物体構成の組み替えが起きる現象の場合に実にはっきりしているのです。

衝突・合体 and/or 乗り込みデータ表
註:表の縦二重線の左右が各々衝突の前後のデータ。運動量の誘導単位を1D=1(m/s)kg としました。


 スピードボールの速度が容易に測定にかかるという意味で,速度≠ヘ運動物体の基本的な物理量(物理「度」?)です。それどころか,単位量当たりの運動の勢い≠自動的に持ち合わせているこの示強性の物理量速度≠ヘ,理論上もたいへん便利な量なのです。しかし次のことは考えておいた方がよいでしょう。

衝突と作用・反作用

 実際のところ,みなさんは物体と物体の相互作用を上図のように概観して,それから,上表中の運動量と速度の単位をいま一度比較してみて,いったいどういうふうにお考えになりますでしょうか。ニュートンの運動の法則(運動方程式)の意味をどのようにとらえましたか?

ふつうよく見かける運動方程式というのは,物体の運動≠ニはいいながら,実は物体を抽象化して単位質量にしてしまった運動の勢い(つまり速度=jの変化を問題にしていますが,これは運動する物体の質量が変化しない場合にだけ正しいのです

運動方程式のかたち
君がすでに運動の法則が理解できている場合は,力と運動量が時間変化する過程を上のグラフでたどって見てほしいと思います。また,やっと理解しかけてきた段階という人は,力積が運動量の変化をもたらすことをグラフからイメージしながら見てください。

なお,私たちが出会う問題には注目する物体が一つだけで,本来は相互作用しているはずの相手が見えないことがままあります。そのような時はたいてい相手がつくる場≠ェ提供されています。地球を相手にした相互作用による放物体の運動を考えるのだけれども,あらわに地球を持ち出さないで,そのかわりに重力場≠ナの放物運動を考えることにする,などとなります。多くの場合場≠熄ネ略して重力のもとで≠ニか重力によって≠ニ表現されます。

 運動の法則がわかる以前には理解しづらかった「力の作用」ですが,「力積」がわかれば容易に理解されます。わかっていく過程では運動の勢い(運動量)≠ェ先行概念としてあったのでしょうが,その後忘れられていたとしても不思議ではありません。「力積」との関係の理解が運動量の先行概念を甦らせます。

あるいは運動量と力積の関係を概念として使っていないふり≠しても,運動の速度や加速度はわかるというべきでしょうか。それほどにテクノロジーからの要求に応えるのに運動学は便利なわけです。運動量の変化は力積からくる≠ニいうような基本法則があたかも衝突という撃力的現象のためにだけあるかのような錯覚もまれではありません。ちょっと逆説的に聞こえるかも知れませんが。


力の作用の一般化

 基本中の基本事項は思っている以上に役立つものです。とくにそれが運動の勢い(運動量)≠フように,抽象的な運動学の単元で速度から加速度を学ぶよりはるか以前に,だれの脳裏にも,一度ならず身体での体験を通してわき起こったことのあるイメージであれば,なおさらです。

こうして私たちは,運動量の変化を主軸にした力学観を打ち立てることができました。まことに自然な流れとしてニュートンの運動の3法則をセットで理解することにもなりました。

さすれば,次のような問題は衝突問題≠ノは違いないけれども,広く言ってニュートン力学≠フ問題の一つと柔軟にとらえることができるのではないでしょうか。

シャボン玉の完全非弾性衝突


 さあ次に,重力の作用が持続してかかる自由落下の過程を《力積→運動量の変化》の図式にのせて考察します。(なお,この種の実験で使用する紙テープと打点を記録する機器との摩擦力,テーブルの面と台車との摩擦力,あるいは空気抵抗などの影響はすべて小さいものです。そして実験の結論を妨害するほどのものではありませんから,ご安心を。仮想現実タイプの実験≠ノ慣れっこになった人は,そういった実感が湧きにくいかも知れません。)



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