| ◆ ◆ ◆ | 持続的発展 | ◆ ◆ ◆ |
| C. 地球はエネルギー開放系 |
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その昔、地球上にまだ酸素が無かったころ、生物は呼吸ではなく醗酵によってエネルギーを獲得するしかなかった。そのような原始地球の状況は、ほかの例とともに現在もちゃんと痕跡をとどめている。皆さんは、それがどこにあるか想像できるだろうか。ウシやヒツジの胃袋の中の環境がそれだ。胃袋は4つある。そのうちの第1袋は反芻(はんすう)胃またはルーメンと呼ばれる(第2袋まで、または全部をさすこともある)。この胃袋の中で安定して棲息する原生動物の種類は20種類、バクテリアは30種類以上にもなる。ルーメンの中の環境は温度38℃、豊富な食物、無酸素等々とってもすばらしく快適なのだ。これら嫌気性微生物はみな酸素を嫌い、われわれ人間のような酸素呼吸はしないで、酵素と醗酵という「酸素なしの呼吸」によって餌を分解している。
微生物が安定していられるのはウシと微生物の協力のたまもの。安定した微生物群集によってウシは生かされ、ウシが生きているからこそ微生物も安定して生活している。ウシすなわちルーメンを地球に、微生物群集を地球上の生物たちにたとえるとわかりやすい。正確を期すなら、「生物系はみな物質やエネルギーの出入りする開放系で、ルーメンもまた開放系に相当する」というべきであろう。参考文献として下記の本を推薦する。地球と人間の未来を生態学的かつ十分科学的に占う意味で、大変おもしろい(おそろしい!!)読み物だ。一食分のお金があれば買える文庫本だ。
しかし、もう一つ忘れてならないのは、バクテリアなどが1種類だけで繁殖することの起こりえない点だ。試験管の中に、1種類のバクテリア(大腸菌)だけを入れ、栄養物を与えてやると、しばらくして個体数は爆発的に増加し、やがて増殖にストップがかかり定常状態を保つが、老廃物の蓄積と栄養物の枯渇が次第に個体数を減少させ、ついに種の衰退をもたらす。
カプセルをかぶせたフラスコの中で、12時間おきの照明と暗闇を与えられたバクテリア、原生動物、クロレラ、ラン藻、ワムシたちが半年以上も安定して共存するさまを想像するがいい。生物間の相互作用には単に「食べる―食べられる」だけではなく、「おさえる」、「生産する」、「競争する」、「自己抑制する」などの働きが複雑に絡み合っている。
フラスコの中で生物は、それぞれ食べたり食べられたりしながら一定の数
に落ち着く。横軸は日数、縦軸は個体数を表す。『有限の生態系』p.8より地球は近似的にちょうどそのような系 ― ミクロコズム ― に相当する。この地球上には無数の開放系があって、いくつもの開放系がべつの開放系との間で交渉しながら、それぞれが安定して存在している。もしも系のなかで安定と共存の微妙なバランスが壊れたら、ルーメンのような開放系でさえも危なくなる。ましてや物質の出入りが近似的に「閉じている」系の微妙さはいうに及ばずだ。
ところで先ほどから表現しているように、地球は外界との間で、ほぼ無視できるほど僅かの物質のやり取りしかしていない。地球表層の遠い場所で第2宇宙速度を越えて出ていく原子や、ときおり地球に入ってくる隕石の質量はごくわずかである。このように物質の出入りだけを見るかぎり地球はだいたい閉じた系と考えられる。しかし地球はエネルギーを絶えず外界から取り込みながら、それを別の形に変換して放出している「非平衡開放系」だ。その入り口と出口のところでは流れは安定なものに見えるが、系の中は至るところ熱勾配があり、全体としては決して平衡状態にはならない。内部の部分系ごとに熱的なムラがあるからこそ、複雑な気象現象ひいてはエントロピーの持ち出しが維持される。太陽の放射エネルギーが入ってきて、赤外線の放射エネルギーが出ていくという意味で地球は「非平衡開放系」だが、赤外線放射だけのいわば『熱さまし』状態だったなら、とっくの昔に宇宙温度に向かってまっしぐらであったろう。太陽のおかげで現在までのところ系は、熱力学的には定常な状態(安定した温度や圧力)を維持することができたのだ。
*これを読むことになったのは溝内正義先生のお薦めによる。 参考文献:「有限の生態系」(栗原康 著,岩波同時代ライブラリー194)
参考文献等:







