核エネルギーの利用は大変魅力的な技術である。それは次に挙げたような利点からして、やがて来る太陽エネルギー文明への回帰の軟着陸に利用する価値があるように思える。
- 単位エネルギー量をつくり出すのに必要な核燃料の量は、他のエネルギーの場合と比較して極端に少ない。
- 地球環境に対する負荷、たとえば温室効果ガスの排出量が、化石エネルギーなどの場合と比較してはるかに少ない。
- 核エネルギーの利用による人類の被爆のレベルは、現状では自然放射線ref.1のレベルよりも2〜3桁低い。
しかしやがては核エネルギー文明も、化石エネルギー文明がそうであったのと同じように、燃料の枯渇によって終焉を迎えることになるのは確実である。かりに高速増殖炉が成功して、プルトニウムまで上手に使ったとしても、その技術が世界中に広まればプルトニウムとて3,000年保つとはとても思えない。
さらに核エネルギー技術≠フ拡散には、上記の魅力をうち消して余りあるほどの脅威がある。そのことは、激しい公害病のような惨状が世界的規模に発展する怖れ、とでも言い表すのが的を射ているだろう。激しい公害とは『チェルノブイリ原発事故』の喩えであり、たった一人の為政者の誤った判断による『ミサイル発射の恐怖』の喩えである。ところが太陽エネルギーを利用する限りは、このような恐怖がまったくない。自然エネルギー(その大部分は太陽エネルギー)を最大限に利用できるかどうかは、もはや技術の問題にはなく政策レベルの段階に至っている。
民生用原子力発電(以下原発=jの運転、原発≠フための燃料や廃棄物の貯蔵、および処理施設などの管理にあたっては、国際的な安全基準の達成を義務づける「原子力安全条約(1994年採択、1996年10月発効)」に従うこととなっている。さらに、国家主権と原子力の【安全査察】との折り合いの調整や、原発による副産物としてのプルトニウムの蓄積など、核物質の【国際管理】の推進は国家間の大きな課題となっている。
わが国では核兵器を開発することも、保有することも出来ないのは周知であろう。日本人にとっては原子力が純粋なエネルギー問題≠ナあっても、核燃料のリサイクル過程で生じるプルトニウムに核兵器の姿をダブらせて見ている国があることは知っておくべきだろう。たとえばアメリカは日本と違って原電≠国際平和または戦略の観点からとらえている。
プルトニウムは原子炉でウランに中性子nを当ててつくり出される人工元素だ。この半世紀の間に、兵器用として、核燃料用として蓄積されてきた。下のグラフは、ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)の年報にある主要国のプルトニウム在庫量だが、推定値を表すと考えたほうがよい。
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平和憲法で戦争放棄を宣言している日本の立場は、原子力は原子力基本法(国内法)に則り平和利用に限定するというものである。国会では非核三原則が決議されている。国際的にはNTP(いわゆる核拡散防止条約)に加盟し、IAEA(国際原子力機関)の査察も受け入れ、原子力発電所には監視カメラさえ設置されている。
天然のウランには軽いウラン(ウラン235、分裂性)が0.7200%の割合で含まれている。軽いウランの可採埋蔵量ref.2は43年である。その他には、非分裂性の重いウラン(238)が99.2745%、もっと軽いウラン(234)がごく微量0.0055%含まれる。原子力発電の燃料としては、下左図のように、ウラン235の割合を2〜4%まで濃縮した「濃縮ウラン燃料」が使われる。なお、235や238などの数字は、原子核を構成する粒子(素粒子)である核子(陽子pと中性子n)の総数を示している。軽いウランは条件が整うと、核分裂の連鎖反応ref.3を起こす(つまり「燃える」)。原子炉では、軽いウラン235が核分裂を起こしたときに生じるエネルギー(高速で走る粒子の運動エネルギー)を取り出して利用する。通常の原子炉では、軽いウラン235の核分裂にともなうエネルギーが7割以上を占めている。
原子力発電核燃料(電気事業連合会の資料より)
ところが通常の原子炉でも運転を続けていくと、「濃縮ウラン燃料」のなかの重いウラン(U 238)が、高速で衝突してくる中性子nを吸収し、(途中で高速の電子eを放出するベータ崩壊を繰り返して)分裂性のプルトニウム239に変わっていく。プルトニウムの半減期は非常に長いので、「濃縮ウラン燃料」を使っているだけで、生成された分裂性のプルトニウム239の割合は増えてくる。このプルトニウム239も原子炉内で核分裂するので、実際には、そのとき発生するエネルギーも使われている。
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いわゆるプルサーマル発電とは、上右図のようなMOX燃料、プルトニウムの割合を4〜6%まで高めたウランとプルトニウムとの混合燃料を、通常の原子炉で使用する発電のことだ。つまり意図的にプルトニウム239の割合を高くした核燃料を、従来型の軽水炉で使用する発電のことである。MOXはヨーロッパの一部(フランスやドイツなど)で使用実績があるとされている。ただし、ドイツはその後原発≠サのものを廃棄すると決めた。ついでながら、燃料の中のプルトニウムの割合を一桁高くした状態で連鎖反応を継続させ、核燃料を使い切ろうとするのが高速増殖炉である。これは、原型炉「もんじゅ」の事故を契機に安全性の問題から物議をかもした。
わが国では、1999年から軽水炉でのプルサーマル発電に移行することが決定されていた。プルサーマル計画は、ナトリウム漏れ事故を起こして運転を停止した高速増殖原型炉「もんじゅ」(出力28万キロワット;福井県敦賀市)に代わる核燃料サイクルの柱として推進することが、すでに1998年度内の閣議で了承されている。原子炉を永く使用していると、プルトニウムの核分裂のエネルギーが3割近くを占めていることもある(電気事業連合会による)。ちなみに、「もんじゅ」の炉内部では、プルトニウムの最大量は2.1×1015ベクレルref.4であった。
1990年代を通じて、世論は、何も改良を加えない軽水炉で出力の向上に対応できるのかどうか、燃料加工にかかる経費の点ではどうか、核廃棄物の処理ないし保管にかかる費用の程度、安全性などを話題にしてきた。さらに、新潟県柏崎刈羽村で2001年5月に実施された『プルサーマルの是非』を問う住民投票は、原子力行政に対し「本当に資源の有効利用の可能性は高くなるのか」、「そもそも核燃料サイクルは不可欠なのか」といった視点を問いかけた。
プルサーマル発電は、1999年度に東京電力福島第1原発3号機(沸騰水型;出力78.4万キロワット)と関西電力高浜原発4号機(加圧水型;87万キロワット)で実施が計画されたが、2001年5月の時点でまだ運転には到っていない。住民投票の結果を受け、東京電力のプルサーマル計画の履行が見送られたことについて、政府と電力業界は「安全性のPR不足」(2001年5月、平沼赳夫経済産業相のコメント)や「より一層情報公開と信頼性回復に努める必要性」(6月14日、原子力関連会社を中心とする団体 原子力産業会議 JAIF(Japan Atomic Industrial Forum, Inc.) の『MOX燃料利用への理解促進に向けて(第50回総会決議)』)などを挙げた。
原子力安全委員会-原子炉安全基準専門部会は、1998年8月末に、事故を想定した放射能の人体への影響を試算し公表している。いわゆる二次審査結果の原子力委員会と原子力安全委員会への諮問である。(これよりさき、部会が1998年7月末に発表した一次審査の報告案では、放射性ヨウ素と放射性希ガスの影響は考慮されていたが、プルトニウムの影響は検討されていなかった。しかしその段階においては、まだ、報告案は安全委員会には諮問されていなかった。)
二次審査によると、もしも80〜90万キロワット規模の軽水炉で、炉心の燃料の1/3をMOXに置き換えて運転していた場合に事故が起きたとすれば、その際のプルトニウムの人体影響の強さは、ウラン燃料のみで運転していた場合に比べて3.4倍〜4.5倍になる。運転時の炉内部でのプルトニウムの最大量としては、加圧水型軽水炉では「もんじゅ」を上回る 2.4×1015ベクレルref.5が見込まれている。
国の原子力委員会は1997年1月31日、プルサーマル計画を2,000年までに原発3〜4基で導入し、2010年までに全電力会社で実施する方針を決定した。その計画によると、ウランに混ぜるプルトニウムには、原子力発電所の使用済み核燃料を再処理したものを使う。
電気事業連合会のプルサーマル計画によると、2000年までに関西電力と東京電力で各2基から始めていきたいとしていた。しかし従来プルサーマル発電事業計画は、操業時と廃棄物処理時の安全性、費用の電気代へのはね返りなどの疑問で、また全般的な情報不足などからも、必ずしも十分な国民的合意を得ているとは云いきれない側面があった。
安全性に対する国民の意識の状況は、すでに1995年12月の「もんじゅ」事故後の国の原子力政策の進め方に対する態度・姿勢、たとえば福島、新潟、福井の「三県知事提言」などにも表されていた。そのことは、原子力委員会から出された平成10年版原子力白書からも読み取ることができる。
1998年9月上旬、原子力安全委員会-原子炉安全専門審査会は、福井県の関西電力高浜原発4号機におけるプルサーマル計画に対して、「もんじゅ」並の立地審査を実施すると発表した。
<わが国に おける原子力政策の動向> 1986・7 MOX燃料使用試験開始(国内初) 1995・12 「もんじゅ」ナトリウム漏れ火災事故発生 1996・8 原発建設の賛否を問う住民投票(新潟県巻町) 1997・2 プルサーマルの早期開始を閣議了解 1997・3 東電、関電がプルサーマル実施の意志表明 1999・9 関電高浜原発用MOX燃料データ改ざん問題発生 1999・9 茨城県東海村のJCOで臨界事故発生 2001・4 東電が福島第1原発でのプルサーマル先送り 2001・5 新潟県柏崎刈羽村でプルサーマルの是非を問う住民投票 2001・6 東電が刈羽村原発でのプルサーマル先送り
かつて旧ソ連のチェルノブイリ原子力発電所で事故を起こした原子炉は、プルトニウム爆弾製造のために開発されたプルトニウム生産用原子炉を発電用に転用した転用炉≠ナあった。中性子減速材に黒鉛が使われ、安全装置は容易に取り外すことができ、原子炉をカバーする丈夫な格納容器は付いてなかった。最大の欠陥は自己制御性を失う場合のあることであった。国際中立機関による10年後の総括では、死者31名、小児甲状腺癌患者約800名、―(後略)― という犠牲者についての報告がなされている。原子力発電史上で最悪の事故だったといえよう。
日本で使われている原子炉は「加圧水型炉」と「沸騰水型炉」で、いずれも減速材に黒鉛でなく水を使用する軽水炉型と呼ばれるものである。
高速増殖炉「もんじゅ」で起きた事故は、冷却材として使われていたナトリウムが漏れて大気中の水と反応したために生じた火災事故≠ナあった。元素周期律表の第1族に位置することからもわかるように、ナトリウムはたいへん反応しやすい元素である。ナトリウム漏れの直接の原因は、ナトリウムの配管に差し込まれた温度検出器のセンサーを覆うさや≠フうち、配管内への挿入用に細く造られた先端から15cmの部分が破断したことにあった。