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2023.02.07
教育・研究Scienceメディア
人魚ミイラの実態解明/圓珠院所蔵『人魚のミイラ』研究最終報告
2022 年2 月2 日から実施していた圓珠院に眠る「人魚のミイラ」を、科学的に分析するプロジェクトの最終結果を報告します。
圓珠院所蔵「人魚のミイラ」研究最終報告
宗教法人圓珠院所蔵の「人魚のミイラ」について、同院、柆田宏善ご住職のご協力の下、その素材と保存、及び、歴史的な背景を調査するために、倉敷芸術科学大学、岡山民俗学会理事 木下 浩、倉敷市立自然史博物館で調査を実施しました。調査は2022年2月2日に開始し、人魚のミイラの表面観察、X線撮影、X線CT撮影を実施しました。また、人魚のミイラより剥落した微物について、光学顕微鏡、電子顕微鏡による観察、蛍光X線分析、DNA分析、放射性炭素年代測定を実施しました。更に、人魚のミイラに関する歴史学、民俗学的調査を行いましたので、これまで判明した内容について概要を報告いたします。
科学調査によりわかったこと(要約)
①表面観察
・頭部、眉、口の周辺に体毛がある。
・眼窩は正面を向く。
・耳介(外耳)があり外耳道が開口する、鼻および鼻孔がある。
・歯はすべて円錐形で先端が後方(口の中側)にややカーブしている。肉食性の魚類の顎で、種類は明らかではない。
・両腕があり、指は5本、平爪を有する。
・下半身は、背ビレ、腹ビレ、臀ビレ、尾ビレを有し、ウロコに覆われる。
・体表に砂や炭の粉を糊状のもので溶いた塗料が塗られている。
②X線、X線CT撮影による観察
・木や金属の心材は無く、内部は布、紙、綿などからなる。
・腕、肩、および首から頬にかけてフグ科魚類の皮が使われている。
・背ビレ、尻ビレ、腹ビレの鰭条および鰭を支える担鰭骨、尾部骨格を確認することができた。
・首の奥と下半身に金属製の針がある。
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③走査電子顕微鏡による観察
・体毛には哺乳類の毛で、毛小皮(キューティクル)が観察できる。
・爪は動物の角質が使われている
④炭素14年代測定
・剥離したウロコの年代は1800年代後半の可能性が高い。
⑤蛍光X線分析
・特別な防腐処理は施されていない。
⑥DNA分析
・DNAは検出できなかった。
科学調査のまとめ
圓珠院所蔵の『人魚干物』は、魚体部は、ニベ科の魚類の皮で覆われ、上半身は、布、紙。綿などの詰め物と漆喰様の物質を土台として、積層した紙とフグの皮でできており、1800年台後半ごろのものと推測される。
歴史・民俗の立場から
①書付について
人魚のミイラと一緒に残されている書付から、円珠院の人魚に直接繋がる情報は得られていなかった。書付には、人魚は『元文年間(1736(元文元)年~1740(元文5)年(徳川吉宗の治世で享保のあと)に、高知(土州)沖で漁網にかかったものが漁師によって、大阪に運ばれ、販売されていたものを、備后(備後)福山の小島直叙氏の先祖が買い求め、以後、小島家の家宝とした。明治36(1906)年11月に小島氏から小森豊治郎氏に売り渡した』とある。これらの具体的な人名などについて、確証のある情報は得られなかった。
②日本に現存する人魚ミイラについて
・確認できるのは12体で、円珠院の人魚が13体目、岡山県内でさらに2体が確認された。これらの多くは寺社と博物館が所蔵している。人魚のミイラのポーズについては、大きく2つの系統、ムンクの叫びの様な姿勢のものと、腹ばい型の姿勢のものが認められる。
・江戸時代以降、数少ないが人魚のミイラについて記録が存在する。
例:天保3年(1832)の『名陽見聞図会』(小田切春江、東洋文庫)の見世物の図
・大英博物館・ライデン国立民族学博物館など外国にも日本製と思われる人魚が存在する。
→江戸期以降、多くの人魚が作製され、外国や国内に存在(流通)していた。
倉敷芸術科学大学生命科学部
健康科学科 教授 加藤敬史
動物生命科学科 准教授 武光浩史
生命科学科 准教授 山野ひとみ
岡山民俗学会 理事 木下 浩
倉敷市立自然史博物館 学芸員 江田伸司
2023.2.7
圓珠院所蔵「人魚のミイラ」研究最終報告を終えて
幼い頃、少年雑誌に掲載されている妖怪や伝説の生き物の話をわくわくしながら読んでいました。
それから何十年もたって、自分がそのようなものにふれ、直接研究する機会に恵まれるとは考えてもいませんでした。
タイムマシンがあったら、おまえは大人になって人魚のミイラを調べることができるんだぞと昔の自分に教えてあげたいです。
この、プロジェクトで多くの情報が得られましたが、まだ、すべてのことが明らかになっているわけではありません。
今回の報告で一応の区切りとしますが、今後もこの圓珠院の人魚のミイラについては研究が継続される予定です。
(健康科学科 教授 加藤敬史)
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